かっこ、カッコ、括弧

 昨日ちょっと書いた金井美恵子氏のエッセー。めんどくさいとか書いてるヒマに探すべし…と反省して、適当に取りだしたエッセー集*1を開いてみたら、その名もあまりに見つけやすく

  • 「」と『』

と題されたエッセーがありました。『重箱のすみ』所収。

重箱のすみ

重箱のすみ


 内容は、中村光夫の小説が文庫に入った際に金井氏が解説を書いたのだけど、その小説のタイトルが

  • 『わが性の白書』

といって、もともと『』が付いている。というのは、それが同時に小説内小説のタイトルだからであって、中村氏の小説は「わが性の白書」という小説を題材にした「『わが性の白書』」であるということになる。…という面白い話から始まって、カッコでくくられた作品名などが冒頭に来る文章を引用したい場合は(同じ引用符が続く見苦しさを回避するため)自分はどんな引用符でくくればいいのかという苦心談、印刷された自作の見た目・字づらに対して意外と無頓着な作家もいる、という話につながっていく。


 くだんの中村光夫の小説が収録されたのは講談社文芸文庫だが、現在は新本では入手できないようで、下記のページでも小さな画像しか見られないが、表紙でもタイトルに『』がついているのがなんとか確認できる。
http://books.yahoo.co.jp/book_detail/AAH40598/
 「Yahoo!ブックス」は、ちゃんとデータ上も『』を無視せずに付けていて感心である。あまぞんでは無視されている気配。ビーケーワンでは、単独では『』つきで表記されているものの、『中村光夫全集 第15巻 』の収録作一覧ではカッコが省略されており、一貫性がない。まさか実際の全集本に『』抜きのタイトルが載っているのではないと思うが、興味ぶかい。

 面白いのは中村光夫 - Wikipediaで、「来歴・人物」欄では

同年、初の小説『「わが性の白書」』を発表、上梓。

として、タイトル自体の引用性(?)に意識的であるところを見せながら、「作品年譜」欄では

1963年(52歳)

  • わが性の白書講談社(のち文芸文庫)

と無頓着な表記になっている(もしかしたら複数の人物が編集していることに因るのかもしれないが)
 ちなみに、はてなキーワード中村光夫」ページの作品リストでは、『』は無視されている。

 要するに、ちょっと入れ子的なこの小説の造りをちゃんと体現したはずのタイトルが、あちこちで不当な?表記をされているのだけど、(金井氏がムッとした口調で指摘するところによれば)著者の中村光夫本人が、のちに自作について書いた文章のなかで、この作品のタイトルを

  • 「わが性の白書」

と書いてしまっている(「『わが性の白書』」でもなく、『「わが性の白書」』でもなく)そうなので、無理もないというものだろう。



**おまけ**

 「まるごと金井美恵子です」というちょっと気恥ずかしい帯が付いていたのだった。
 左は、岩波書店のPR誌『図書』の最新号。

*1:このあたりかなぁ…と思いながら最初に手に取った一冊がズバリ正解だったので、私のムダに長い金井読者歴も馬鹿にできないもんだと自分だけ感心した