ここからも見えたあの景色

 恩田陸『三月は深き紅の淵を』第4章「回転木馬」より:

憂理はためらわずに迷路の中心へと向かっていく。
「どうして迷わないの?」
理瀬は不思議そうに尋ねた。
「うん?ああ、あれよ」
憂理は正面の丘の上にひときわ高くそびえ立つ三つの尖塔を
顎でしゃくって示した。
「あの塔がどうかしたの?」
理瀬は三つの首を持つ竜のような古びた塔に目をやった。
「おばけ煙突よ−−知らない?昔東京にあったやつ−−四本の煙突が、
見る位置によって二本に見えたり一本に見えたりしたんですって。
それと同じよ。あの三本の塔の位置関係が
変わらないように視界に入るように歩いていけば、方向を間違わない」 

 先日書いた、木村荘八の『新編 東京繁昌記 』で紹介されている、荒川は西新井橋南岸の火力発電所のオバケ煙突が、こんなところで言及されていたので驚いた。ついでに、『三月は深き紅の淵を』は辛うじて第1章に微かに読んだ記憶があるだけで、あとはまるで初読のような気分!自分の頭がほんとうにふしぎ。