憂理はためらわずに迷路の中心へと向かっていく。 「どうして迷わないの?」 理瀬は不思議そうに尋ねた。 「うん?ああ、あれよ」 憂理は正面の丘の上にひときわ高くそびえ立つ三つの尖塔を 顎でしゃくって示した。 「あの塔がどうかしたの?」 理瀬は三つの首を持つ竜のような古びた塔に目をやった。 「おばけ煙突よ−−知らない?昔東京にあったやつ−−四本の煙突が、 見る位置によって二本に見えたり一本に見えたりしたんですって。 それと同じよ。あの三本の塔の位置関係が 変わらないように視界に入るように歩いていけば、方向を間違わない」
先日書いた、木村荘八の『新編 東京繁昌記 』で紹介されている、荒川は西新井橋南岸の火力発電所のオバケ煙突が、こんなところで言及されていたので驚いた。ついでに、『三月は深き紅の淵を』は辛うじて第1章に微かに読んだ記憶があるだけで、あとはまるで初読のような気分!自分の頭がほんとうにふしぎ。