場所の底、自分の底

 高原英理『抒情的恐怖群』読了。図書館本。

抒情的恐怖群

抒情的恐怖群

 表紙のオブジェ(西尾康之さんの「コケシ」と題された作品らしい)のあまりの怖さに、読まずにはいられなかった本(そのわりには、図書館で借りて済ませたわけですが(--;)ゞスマヌ)


 じっさい読んでみたら、中身のほうも表紙に劣らぬ怖さでした。おもに土地や場所にまつわる怪異な話を、もったりみっしりした、しかし土俗的というのとは少し違う独特のねじれを帯びた文体で語る短編集。よくある都市伝説ネタの話、とみせて最後には驚くべきスケール(?)の悪と闇を出現させる冒頭の「町の底」が好み。
 一見、稗田礼二郎ものを連想した「帰省録」は、主人公が久しぶりに訪ねた故郷の小さな集落で、いかにも何かを封じ込めたような遺物の配置のあいだから古き邪悪なものの出現を待望させつつ、とつぜん思いがけない落とし穴へ導く、まばゆいホワイトアウトのような終局。不安のなかに取り残される感じが印象に残る。直前に読み終えた『ヴィクトリア朝の寝椅子』と同じく、急に自分が誰だか分からなくなる恐怖と眩暈をしっかり味わった。*1

*1:そういえば「水漬く屍、草生す屍」のラストも…