あっさり苦いペシミズム

ディーノ・ブッツァーティ『神を見た犬』(光文社古典新訳文庫)読了。

神を見た犬 (光文社古典新訳文庫)

神を見た犬 (光文社古典新訳文庫)


 『シルトの岸辺』を読んだときにもちょっと気になっていた『タタール人の砂漠』の著者、ブッツァーティのこれは精選短編集。短篇もそんなに書いてる人なのか…と意外に思いながら読んでみたら、これがけっこう面白く、帯やカヴァーの紹介文からはもっと重苦しい作風を想像したけれど、むしろ軽めで淡々とした印象。
 聖人や修道僧が人間臭くあるいは軽んじられるさまが描かれたり、俗人たちの形式ばかりの信心を皮肉る作品など、寓話的なものも面白いが、私の好みなのはやはり「七階」や「呪われた背広」などの一種の恐怖小説だ。

 おどろいたのは「戦艦《死》(トート)」。第二次大戦中のドイツ軍で、ある絶望的な作戦のために謎の戦艦が秘かに建造されたのではないかという妄想(?)にとりつかれた軍人の探索を描いたもので、『軍艦「橿原」殺人事件』を連想させた。それにしてもあんなふうに唐突に終わるとは。けっきょくクトゥルー物じゃなかったのも残念だわ(笑)。


 ところで、入手困難と思い込んでいた『タタール人の砂漠』が普通に新刊で買えるらしいことに今日気づいた。これはやはり読めと言うことかしら。

タタール人の砂漠 (イタリア叢書)

タタール人の砂漠 (イタリア叢書)