異世界を覗く

 
 先日METライブビューイングの迫力に満足したので、こちらも観てみたくなり、上映期間最後の週末にあわてて出かけました。ただし、シネマ歌舞伎なら何でもというわけではなく、ほかならぬ鏡花by玉三郎だから…ではありますが。


 思えばこれに限らず鏡花の作品あれこれに出てくる妖しい女性(?)はこの世の者ならぬ存在なのだから、普通の生身の女性が演じるよりも、女形の役者が演じるほうがずっとふさわしいのだろう。Wikipediaには、鏡花の生前には上演されなかったとあるけれど、鏡花はいったいどんな人物にこれを演じて欲しいと思っていたのだろうか。玉三郎のいない世界(笑)で、誰が演じるところを思い描き得たのか、きいてみたい気がする。

 一夜漬けで読んでいった原作から受けたイメージとそれほど大きく離れることなく、幻想の世界に浸らせてくれる映像。文字で読んだ時はちょっと意味が取りづらかった会話で、舞台をみて納得した箇所もあった。期待したほどには装置の立体感がなく、「天守」がどれほどの高みにあるのかを想像させる要素がちょっと少なかった(亀姫さま御一行の駕籠が宙をわたってくる描写ぐらいか)のは残念だけど…いつどこの調べともわからない不思議かつ耳に残る音楽も良かった。いったん見えなくなった眼が、再び光を取り戻すというdeus ex machinaな?結末も、私には縁起が良いストーリーとして素直によろこんでおこう。

 本編の前に、玉三郎が本作について語る短い映像があるのだが、“それでは鏡花の幻想の世界をたっぷりお楽しみ下さいませ〜“的な、とおりいっぺんのご案内トークでは全然なく、かなり深い(私には理解できたとはいえない)作品論、演出論をズバッとした言葉で語っていて、クリエイター玉三郎の気迫をみたような気がした。
 それから私は海老蔵にあまり良い印象は持ってないwのだが、姿だけでなくセリフもきれいで、やはり貴重な役者なんだなと思った。


 余談だけど、上映前にオヤツを交換しながらさかんにおしゃべりしているオバ様3〜4人の集団がすぐ後ろの席にいて、「あ〜この人たち、映画が始まってもしゃべり続けるのとちがうかな〜ぶちこわしかも」と心配していたのだが、予想はすっかり外れて、フィルムが回り始めたとたんに全員ひとっことも声を出すこともなく全き静寂のなかで映画は鑑賞されたのであった。玉三郎ファンのクオリチーの高さも思い知った1日であった。


 続く『海神別荘』もできれば、そして『高野聖』はぜひとも、観に行きたい。