時あたかもMidsummer


山田正紀天正マクベス 修道士[イルマン]シャグスペアの華麗なる冒険』 読了。
    (原書房ミステリー・リーグ)                


 このところ続いたミステリー・SF寄りの読書(図書館からの借り物)も、これでひと区切りです。


 この著者の本で読んだのは『エイダ』とこれで2冊。『エイダ』は複雑で難しかったけど、重量感のある読みごたえでそれなりに面白かったと記憶してます。


 『天正マクベス』のほうは、「週刊アスキー」連載だったせいか(汗)わりと文字面がスカスカしていて、文章も楽に読み進めたけれども、全体に物足りなかったです。

 各章が「テンペスト」「夏の夜の夢」「マクベス」の本歌取り(逆かな?)になっているのだけど、いまひとつ膨らみ足らない感じのまま。さいしょの口上に述べられているいわば二重の「偽書」仕立ても、後あと特に生かされているとも思えないし・・仕掛けがすごく面白そうだと思って読み始めたものの、けっきょく利用しきらずに終わっている感じで、少しもったいないという印象を受けました。

 また、<シェイクスピアとは誰だったのか><本能寺の変の背景>という、実際によく取りざたされる歴史上の謎についても独自の解答が提示されています。前者はとりたててアッと驚くような新説というわけではなさそうですが、後者はちょっと衝撃的な理由付けがされていてユニークなのではないでしょうか。


 ところで、タイムリーなことに19日の新聞紙面で次のような記事を見かけました。

  信長焼き打ちの坂本 発掘四半世紀 「物証」まだ出ず
  信長の“蛮行” 揺れる通説


 比叡山延暦寺とともに焼き打ちにあったとされる坂本地区の発掘調査が、1981年から滋賀県および大津市教育委員会によって行われてきたものの、いまだ焼き打ちの事実を示す遺物(焼土など)が発見されないというものです。このことから、文献(京都の公家・山科言継の日記「言継卿記」や、「信長公記」)に基づいて従来考えられてきたよりも、焼き打ちは小規模・限定的なものだったのでは・・という推測も成り立つ。また、「残忍な信長像の見直しが必要」との見解も出ている、とのことです。

 もちろん大規模な焼失の痕跡が見つからないからと言って、ただちに(これまで言われてきたほどの)焼き打ちの有無や、ましてや信長の性格まで推し量れるというわけでは無いでしょうが。


 『天正マクベス』を含め、織田信長(とその周辺)が登場する時代小説はたぶん数え切れないほど有るでしょう(宇月原晴明ぐらいしか読んだことがないです)。これら無数のフィクションは言うまでもなく、信頼に足る史書とされてきたものであっても、まだ鵜呑みにはできないということですね。いずれにせよ信長は魅力的な存在と多くの人から思われているだけに、決めつけないでいろんなふうに描いてもらえるといいと思います。