回り舞台に載せたパノラマみたいな

スティーヴ・エリクソン『黒い時計の旅』(白水Uブックス) 読了。


 図書館で再貸出してもらってようやく読み終わりました。残りページ少なくなってからもどんどん加速度的に話が展開するので、どーなるどーなる!?とゼイゼイいいながらついていく感じ。こんなに激動のお話だったとは。それに題名どおり、旅のお話だったんですねー。


 福武が出していた頃から知ってはいたものの、ずーっと読みそびれたまま。先に《第二次大戦でドイツが敗れずヒトラーがまだ死んでいない・・・》というような設定だけをみるとやっぱり『高い城の男』を連想してしまい、あれを私は真夏のギュンギュンに冷房の効いたJRの通勤列車内で読んだので、エアコンの冷気と新しい車両のケミカルな匂いが混ざったひんやりした感じの記憶ばかりが蘇るのだ。
 そういうわけで、なんとなく『黒い時計の旅』も乾燥してクールな小説のように思いこんでいた。でも読み始めるとすぐに水と泥と霧が湿っぽく匂って驚かされた。それに、上記のような紹介は、たしかに本作の「設定」ではあるけれど、べつに「そういう話」が書いてあるわけではなく、大いに当てが外れるのであった。
 さいしょに思ったよりは面白く読めたけれども、残念ながら私のアタマでは一度読んだだけではわけわからないところ多数。とりあえず脳内では、いろんな種類の時間のリボンがひとりの女のなかを思い思いの方向から好き勝手な速度で通過していて、この女のなかでだけ全部の時間が出会ったり重なったり結ばれたりしている、しかもそれは踊ることで男たちを死に至らしめる20世紀のサロメみたいな女だった・・・そういう絵が出来上がりましたが、そんなことは書いてなかったかもしれません(汗)。


 ところどころ熱すぎる文体がやや私には鬱陶しい感じもあったけれど、できればもう一回読み返してみたいし、この作者の他の作品もまぁもう少し読んでみたい(特にトマス・ジェファソンの出てくるの・・・実話に基づいているならちょっとは読みやすかろう、なんて思っているとまた足下をすくわれるか)という気にはなった、不思議な小説。あぁ、わからなかったけど/のでえらく気になる。