溢れる水の復讐譚

 小野不由美『東亰異聞』(新潮文庫) 読了。
 


 ずいぶん前に図書館で借りて読んだものの再読。あいかわらずきれいサッパリ忘れ果てており、憶えていたのは屋上に立つ火炎魔人と、結末の水没都市の強烈なヴィジョンだけというありさま。こんなお家騒動部分が濃い話だったとは思っていなかった。
 複雑な家族・兄弟の愛憎関係から起きる連続犯罪といい、そこから噴き上がるように露出する大きな闇といい、またもや『虚無への供物』を思い出す(スミマセン、なにせ持ち駒が少ないので、何を見ても簡単に「アレに似てる」「コレに似てる」言うてばかり)。そして、このまえ津原泰水『少年トレチア』を読んだ時は、『虚無』と関係有るような無いような・・と思いながら、うまく結びつけられずそのままにしてしまったけれど、これで『虚無』→『東亰異聞』→『トレチア』と、きれいにつながっていることが解った(!?)ので自分としてはぜんぶ解決。ばんばんざい。


 小野不由美氏の文章は、過剰な美文調とは無縁でありながら、ひとつのゆるみもなく悠然と繰り広げられる名調子、まことに格調高く貫禄ある名文と思いました。幸せな読書でしたわ。


 あ、それから宮中祭祀はやはりしっかりとやっていただきたい、と切に思いましたです。


<参考リンク> ファンの集う同盟サイトです。
【東亰異聞同盟 とうけいいぶんどうめい】東亰異聞同盟