神ある世界の単純さ

エリス・ピーターズ『修道士カドフェル(2)死体が多すぎる』(光文社文庫)

死体が多すぎる
エリス・ピーターズ著 / 大出 健訳
光文社 (2003.3)


 5月に読んだのに、なかなか書き留めるヒマがなくて、書きたかったことをだいぶ忘れた。


 本書の解説にも書かれているとおり、シリーズ第1作の『聖女の遺骨求む』は寺宝をめぐる修道院間の暗闘(?)、世俗領主との関係など、カドフェルの属する一修道院の周りで起こる事件を取り扱ったものであった。それに対しこの第2作は、シリーズ全体の背景となっている実際の歴史上の出来事(王位継承権を主張してスティーブンとモードの従兄妹どうしが争い、イングランドが内乱状態に)を織り込んで、少しスケールの大きな話になっている。

 第1作同様、りりしく勇敢な若い女性たちの活躍が心地よい。
 あいかわらずこちらの地理・空間感覚が悪いので、カドフェルが仕掛けた方角に関わるトリックも、地図を見ながら読んでるのに「あれ、どこのこと?」と混乱気味。しかし一番の騙しは、この権謀術数の絡み合うなかでいったいどの立場をとろうとしているのか測りがたい、ある人物。結末が明らかになっても、この人物の本心というものに、いまひとつ得心がいきかねるのであった。あぁ複雑なのは(トリックじゃなくて)人の心なり。きっとこれは大人の世界なのね。

 カドフェルはスティーブンとモードのどちらの味方でもなかった。四人の若者のうち二人はいまモードの側に付き、もう二人はスティーブンの側に付いているが、かれらはみな、この内戦の無秩序状態のあとにやってくる未来のイングランドにこそ、生きる者たちなのだ。「正義ということで言えば、それは半面の真理でしかない」カドフェルは言った。

 そんなカドフェルの包容力のある物の見方が、頼もしくもあり物足りなくもある。