ホムンクルスのお庭

 宇月原晴明聚楽―太閤の錬金窟(グロッタ)』(新潮文庫) ほんとは一週間前に読了。

 書影などはこちらに載せてます。


 第1作『信長―あるいは戴冠せるアンドロギュヌス』は、ヘリオガバルスを信長に、あるいは古代シリアのバール神牛頭天王につなげるという着想をスタイリッシュに提示してみせた、どちらかというと骨格の面白さを鑑賞するタイプの小説だと思う。ちょっと斜に構えた作者が「ふ、このテーマがどれだけの人に通じるかねぇ…」とか言ってそうな雰囲気があった。
 それに対し続編にあたる『聚楽』のほうは、書きたいこと全開という感じの大長編。戦国物・伝奇アクション・オカルトなどの諸要素がてんこ盛りで、絶品メガエッグチーズベーコンテリヤキバーガーのような状態になっています。
 さすがに長すぎるような気もする(500ページぐらいで一応クライマックスが来るのだけど全部で750ページぐらいある)けど、それでも書き足りなかったのではないかしら。最後の、秀吉没後あたりからは「事情により端折りました」ぽい印象を受けてちょっと残念(研究熱心の余り異端の道へ入りこんでしまったらしき、イエズス会士ボルハの末路ももっと具体的に知りたかったし…)。私は戦国史やその周辺のエピソードなんかには全く暗いのですが、秀吉や家康がじっさいに取った行動の不可解部分を大胆な仮説(笑)で解き明かしていく伝奇物の面白さももちろんあり、人物もそれぞれ魅力的に描かれていて楽しめました。あやうく秀吉ファンになってしまいそうな私… それに、これまで秀次といえば「秀吉に実子ができたとたんに冷遇された気の毒な人」という認識しかなかったのですが、その彼におそるべき出生の秘密が!しかも錬金術に没頭する復讐の鬼という濃厚なイメージが、今後は頭から離れなくなるかもしれません(ウキウキ)。
 やや羅列的だった『信長』に比べて、生々しく具体的な描写が展開されるし、タイトルどおり“グロテスク”な場面も多いので、オカルトや錬金術・異端・グノーシス書物愛なんかに親近感のある人には楽しめますが、そのような方面にあまり関心の無い人が読むのはちょっと苦痛かも。ジル・ド・レとジャンヌも重要人物として登場(?)しますので、「はッ、ユイスマンスは『彼方』も再読しなくては(汗)」とますます読むべき本が増えてしまいました>nego10さん

 おもむきも異なる別個の物語ではありますが、1作目での信長の驚くべきキャラクター設定をふまえて読む方がやはり面白さ倍増でしょう。続く第3作『黎明に叛くもの』はどういう内容か全然知らなかったのですが、松永久秀を主人公に、合わせて“戦国伝奇3部作”とでも言うべきものになっているらしい。楽しみです。

 (追記:『聚楽』に繰り返し出てくる気味わるい手毬唄(?)、『草迷宮』の手毬唄のヴァリエーションなんだということを、いま検索して知った。『草迷宮』も読んでないという教養の無さと、ネットの有り難さをまたまた痛感。はづかしい〜)