かすかな胸の痛み

 知らない間に出ていたので、あわてて購入。*1

 雑誌『ミセス』に連載されたものを含め、近年のエッセイを収録した一冊。金井氏が『ミセス』にエッセイを連載していることはとちゅうで気づいていたが、書店でこの雑誌をぱらぱら眺めることはあっても、金井氏のページは敢えて開かないようにしていた。1960年代後半〜70年代にかけての『ミセス』誌といえば、当時まだ若い主婦であった私の母にとってほんとうに数少ない楽しみのひとつであり、子育てと家計のやり繰りに追われる貧しい生活の中でつかの間の夢を見出したその小さな別世界に、誰であっても触れてほしくないという、おそれのような気持ちもあったためだ。
 とは言っても、子供であった私も時にはめくってみたあの頃の『ミセス』誌面は、今でも懐かしい。ダルナさんって誰なんだろう・・・誰だかわからないまま、ヨーロッパの暮らしを垣間見せてくれるページを切り抜いて、田村セツコのイラストがついた紙ファイル(リリック社製)にせっせと綴じ込んだりした。手の届かない憧れでいっぱいだった。そんな『ミセス』誌も、母が何度かにわたって思い切った処分をし、いまは全く手元に残っていない。
 たいていのことはネット上で探したり調べられるようになった現在、「このページ以外ではもう巡りあえない」「いまこの雑誌を入手しておかなければ!」というような灼けつくような情報所有欲を感じることはほとんど無くなった*2。にもかかわらず、捨てられないさまざまな雑誌の群れが我が家にはまだ残っている。たぶんネット上のどこかに同じ内容があるとしても、それは同じではないんだろう。

*1:古い誌面の画像を含む内容であり、なんとなく単行本には収録されない(されにくい)ような気がしていたので、この本が出たのは意外だった

*2:実際は雑誌でしか出会えない情報や物事もいっぱいあるのだろうけど