100年ずっとあるクライシス

 ところで、昨日の日記に書いた映画『クライシス・オブ・アメリカ』はひさしぶりに入ったレンタル店でふと思いついて借りてみたのだが、ちょうどNHKのこんなドキュメンタリー↓を録画してあったので、続けて観た

 泥沼化する米軍のイラク駐留。大規模な戦闘が終わった後も、小型爆弾による攻撃やテロ事件が続き、激しいストレスから多くの帰還兵がPTSD心的外傷後ストレス障害)を発症している。
  PTSDの症状が初めて「発見」されたのは、一般市民が戦場に駆り出され、大量殺戮兵器が登場した第一次世界大戦だった。それからおよそ100年、極限状況における人間心理を国家はあらゆる角度から研究し、生身の人間を「戦闘マシン」に近づける訓練や戦闘の方法を模索してきた。しかし、戦争の方法が合理化・ハイテク化しても、兵士たちは新たなストレスや罪責感などと向き合わざるを得ず、PTSDの増加に歯止めはかからない。番組では、20世紀における戦場心理研究の歴史をひもときながら、「兵士の心が壊れる」というかたちで繰り返される戦争のもうひとつの悲劇を描く。

ハイビジョン特集 兵士たちの悪夢

 映画のはじめのほうで、毎夜つきまとう悪夢の苦しみをデンゼル・ワシントンに直訴する元部下が出てくるが、その姿と重なるような実例がこの番組の冒頭にも登場する(「湾岸戦争」が「イラク戦争」になっただけ)。番組はそこから「シェル・ショック」という名付けが生まれた第一次大戦までさかのぼって、ベトナム戦争そして現在に至るまで繰り返される戦争の悲劇を辿っている。心の病がいまだ理解されていなかった一次大戦当時の荒っぽい治療風景のフィルムも恐ろしいが、ソンミ事件に関わった元兵士が帰還後20年間も苦しんだ末に銃で自殺した事例はあまりにも型どおりで、なおのことショッキングだった。
 可能な限り損害を少なく、効率的に戦争に勝利するためには「発砲率」を上げる必要がある。兵士は「相手も自分と同じ人間である」という気持ちを抱くと、たとえ敵に対してでも発砲を躊躇してしまう。そこで、さまざまな訓練を通じて、人間のカタチをしたもの撃つことに対する抵抗を取り除き、「発砲できる」兵士に仕立て上げていくのである。「兵士の心が壊れる」とはPTSDの状態を表現しているのだが、それ以前にむしろ「(人間らしい)心を壊してからでないと兵士として使いものにならない」。それがこの100年、戦争の反復を通じて得られた"教訓"らしい。そして壊れた状態の人間たちが戦場から日常へ帰還してくる。番組では、帰国してから暴力的・破壊的な犯罪を起こしてしまった帰還兵たちのリストが映し出され、つい昨日まで女子高生だったような兵士たちがイラクの街並みを模した施設で戦闘訓練を受けている、銃を構えこわばった表情をアップで捉えて終わり。

 そういえば、連日テレビで報じられているアメリカ大統領選挙の狂騒ぶりも、あの映画に出てくるのとそっくり同じだ。長期にわたる選挙キャンペーンを、常にハイテンションでこなし続けて自信満々のあの両党正副候補者たちを観ていると、ほんとに脳に何か細工してあるとしか思えない。荒唐無稽なはずの映画がいつのまにかリアル感を増してくるような…