さいきん読了本

 図書館本2冊を読了。どちらも予想よりずっと面白くて得した、得した。


工藤庸子『宗教vs.国家 フランス〈政教分離〉と市民の誕生』(講談社現代新書

宗教VS.国家 (講談社現代新書)

宗教VS.国家 (講談社現代新書)

 フランスの「政教分離(ライシテlaïcite)」が、大革命から百数十年の曲折の果て、「闘争」に近い激しい形で成立した経緯を解説。フランスではカトリックの修道会が営む学校の影響力が非常に強かったため、信仰そのものというよりこのカトリック教権という強大な権力を公教育の現場から切り離す法律上の制度が「政教分離」だった。カトリック信仰はフランス人の社会生活から個人の心情まで深く関わり根を張っている、だからこそ、そこから身をもぎ離すようにしてしか市民的自由は確立できなかったということだろう。
 軍や警察を動員してまで教室から十字架をとりはずす衝撃的な光景を、20世紀初頭に目撃した人たちが最近まで存命であり、その人たちから体験話をじかに聞かされた世代が今でもたくさんいることを指摘して、著者は

 イスラームのスカーフを教室のなかに入れることはできないと主張するフランス人の心性は、自分たちは十字架を教室から運び出したという記憶によって、今も養われているのではないか。少なくともその記憶が、スカーフの排除は政治的には正しい(原文では傍点)という実感をささえているのではないかと思われる。

と書いている。歴史の中の記憶や象徴というものを考えさせられて興味深い指摘。しかしこの部分を含め本書を読んで私は、それならばなおのこと、絶大な[財]力を持つ組織であるカトリックと、少数派にすぎないイスラム、どこから見てもキリスト教のシンボルだろう十字架と、一般的装身具とどう見分けられるというのか今ひとつわからないスカーフ*1とを並列に考えるのは私にはキツいなぁ、という感想を持った(もちろんここで著者はスカーフ排除の是非を論じてはいない)。



黒田泰三『思いっきり味わいつくす伴大納言絵巻』 (小学館アートセレクション)

 同シリーズ中の『信貴山縁起絵巻』が読みたかったのだが貸出中なので、かわりにこちらを借りた。実際に起きた「応天門炎上事件」の顛末が題材なので、『信貴山』のようなファンタジックな面白さではないものの、ミステリぶくみのドラマとニュースを兼ね備えたような生き生きした絵巻の造りが、全体図とディテール図の併用によって間近で見るように伝わってくる本。早く『信貴山』のほうも読みたいなー。

*1:同じスカーフでも、着けてる人の肌や髪の色で違う受け取られ方をしてるんじゃないかという疑い。そして、日常的に身につけている人にとっては、スカーフを取れと言われることは衣服の一部を脱げと言われるのと同じような難題であろう、まして十字架とは異なりそれは「女性」にのみ属するイシューだ (ときおり話題になる、高校生の制服に用いられる朝鮮の民族服と同様に)というところに、私はなんともいえないしんどさを感じる。著者はこの本のなかで宗教と性差にも言及しているが、私には難しくて頭が未整理。