けっこうマッチョ

 野阿梓『兇天使』(ハヤカワ文庫)読了。

兇天使 (ハヤカワ文庫JA)

兇天使 (ハヤカワ文庫JA)

 この作者の名前を見ると「ぷろぐれ」と連想してしまう私。なぜか知らぬがプログレ。当然なびく長髪。初めて読んだ野阿作品ですが、やはり読んだ感じも「国産シンフォニックプログレ」。目次にならんだ各章の題も《麒麟幻想 DRAGON TRAIL》とかそういう調子で、(私なりの)プログレ感を読み取ってしまいました。

 しかしタイトル『兇天使』は何となく病み窶れた語感があって、この作品のゴージャスな満腹感があまり伝わってこない。『ベルカ、…?』が、「イヌが20世紀の戦争史を駆け抜ける」話だったとしたら、こちらは「天使が竜を追尾しつつ人類文明史を駆け抜け」て、しかもそれが『ハムレット』とねじりん棒になりつつ最後は一体化という気宇壮大な物語になっている。ところどころあふれ出す歴史の蘊蓄や国家を論じて演説調になるのも、耽美と言うよりむしろマッチョな印象。でもこの全力感はいちおう好ましいです。『黎明に叛くもの』でも重要な役割をしていた、暗殺教団アサッシンを率いる「山の老人」ハサンがここにも登場したのにはちょっと驚いた。よほど伝奇魂をくすぐるモチーフなんですかね。というか、人並み外れた武術や殺人能力を身につけたと設定するのに、単に便利だからか?

 ともあれ、大森望せんせいの超絶賛巻末解説がなかったら読まなかったかもしれないので、ありがたいことでございます。こういうのが高校生の頃に読めたら、私も文学少女友Sちゃんも幸せだったろうなー、と思ったけど、初版が1986年なのでそれは元から無理(--;)ゞ