ロルフ・ユッセラー『戦争サービス業』より

 図書館から借りてる本です。

戦争サービス業―民間軍事会社が民主主義を蝕む

戦争サービス業―民間軍事会社が民主主義を蝕む

 奥泉光氏の強いお薦め書評記事を読まなかったら、手に取ることもなかっただろう本。仮にふと開いて見たとしても、奥付の訳者プロフィールのところに《この本を一人でも多くの日本人に読んでもらいたいとの一市民としての思いから、専門外ではあるが、あえて翻訳した。》と注記してあるのを読んだ時点で、「なんか怪しいかも…」なんて思ってしまったに違いない。奥泉氏のお墨付きあったればこそ。
 
 というわけで、まだ全4章のうち1章しか読んでないのだけど、印象的だった箇所をちょっと刈り込んで抜き書き。


 第1章「ビジネスとしての戦争」-「4 武力の世界市場で暗躍する民間軍事会社」より:

 兵站、補給、保守の部門で大手のひとつが、ケロッグ・ブラウン&ルート社(ハリバートンの子会社)。数年間にわたって、ペンタゴンから数十億単位の業務を受けている。旧ユーゴ、コソヴォ戦争で重要な役割を担って大きく飛躍。その業務は建設、輸送、技術関係、建物と装備の保守、道路建設、電気・水道・ガソリン・食料の供給そして衣服の洗濯から郵便物の配達まで多岐にわたった。同社の支援なしでは、兵士は食べることも眠ることもできない、車両もガソリンもない、武器も弾薬もないという有様だった(...)難民への救済措置も同社のさじ加減ひとつできまった。一部の難民は5つ星のテント村に入れた。これは金がアラブの石油王から出ていたためで、救援金が他のもっと貧しい国から来た者たちはみすぼらしいテントで我慢させられた。

 いまハイチで必要とされている機能のすべてが、おそらくこの種の企業には備わってるんだろうな。決して「善意」で、どうぞ、と差し出されることは無いけれど。じっさい、赤十字をはじめとするNGOも、危険地域においてはしぶしぶながらも彼ら「民間軍事会社」の支援・保護を受けなければ活動できない場面が多いらしい。だから、そういう形でハイチにも「民間軍事会社」が入ってるのかもしれない。


 同じく第1章 -「3 多彩な発注者」より:

 企業と民間軍事会社との関係で特殊な問題が起こっているのが、「輸出加工区」、いわゆる「マキラドーラ工業」である。急速に世界中に拡大しつつあるこの工業地域は、いわば治外法権の安全地域なのである。(...)輸出加工区がおかれている国家は、規制のまったくない労働市場、大幅に利用費を免除された社会基盤、それに思いきった免税を企業に認める。地域的に限定された「工業団地」内部では、それぞれの国家は主権を全面的に企業に譲渡し、団地の外側でその安全を保障する。国家の保安機関はいわば警備会社に成り下がっている。団地内は企業が、通常は民間軍事会社の協力でほぼ全面的に管理し、支配する。この「専制支配」の条件のもとでは、従属した従業員は労働法、刑法、憲法によって本来なら守られるはずの権利を一切認められていない。労働協約の無視、賃金不払い、危険で非衛生的な労働条件と職場環境、不当解雇、そして女性に対する性的な嫌がらせなどが日常茶飯事である。(...)マキラドーラ工業の実情を見ると、なぜ企業が民間軍事会社に業務を委託するかがよく分かる。企業がその経済的目標を追いつづけ、そのためには必要とあれば、従業員の抵抗を力でねじ伏せ、その要求には一歩たりとも譲らないでいるには、民間軍事会社の協力が不可欠なのだ。

 某知事なんかが威勢良く「特区」「特区」と言ってるのを時々聞くけれど、こういうのを連想してしまいそうで怖〜い。

 
 参考リンク:メキシコ情報:マキラドーラの光と影: スペイン語学習のヒント