懐かしく切ない日本

 すっかり遅くなりましたが、今年もよろしくお願いします。

田辺写真館が見た“昭和” (文春文庫)

田辺写真館が見た“昭和” (文春文庫)

 前に書いたとおり、《宇月原晴明祭》をウットリ開催しつつ年越ししたのですが、その後に軽いものを…と読んだこれは、家族や幸せについてさまざまなことを考えさせられる、新年に読むのにふさわしい一冊。

 作家・田辺聖子が、生家である写真館にて過ごしたハイカラ&賑やかな戦前の暮らしを写真とともに振り返る自伝的エッセイ。自分の知らない昔日の話でありながら懐かしく、赤の他人の家庭であり生活なのになぜかとても切なくなって涙がにじむ。あの戦争さえなかったら。あの時代の多くの日本人が経験した、とくに珍しくもない人生であり感慨なのであろうが、写真に残されたそこに確かに存在した個人の顔が伴うと、急になにもかもが、すぐ隣で自分も見聞きしていたことのように思えてくる。子供の心の、いつの時代も変わらない部分、子を思う親や祖父母の気持ちなど、なかみは全然ちがうのだけど、読後感は『銀の匙』を読んだときに少し似ていた。