どこからともなく救世主

 物語の性格上、イースター前後の時期に上演されることが多いのか(本映像は今年3月2日収録)、主役を歌ったヨナス・カウフマンは、今週ウィーン歌劇場にも同じ役で出演してたみたい*1


 私はこの作品は観るのも聴くのも初めてなので何の比較も評価もできないけれど、歌手は皆とても素晴らしかったと思います(特にグルネマンツのルネ・パーペ)。演出も決して奇をてらった感じでなく、この観念的な作品にはまずまず相応しい演出/装置だったのでは。それと第二幕の、貞子!?…じゃなくて魔女の皆さんが白いドレスで凍り付いたように立ち並ぶ場面は、最初はドレスだけが吊り下げてあるのかと思い、塩田千春のインスタレーションを連想したのだけど、実は生身の歌手達とわかってちょっとビックリ。しかし、その白いドレスが裾から紅く染まっていくところもやはり塩田の作品を思わせたので、ひょっとしてあれにヒントを得たのか?と思ってしまった。


 それにしても、先王の存命中に王位を継ぎながら呪いにより苦しむ王、そこへ全く無関係な若者が突如救い主として登場、という筋書きは何を象徴しているのか/いないのか。傷口が癒えず出血し続け、さりとて死ぬことも出来ないアンフォルタスは、機能不全に陥ったキリスト(教)の隠喩かもしれないが、次にやってきた救世主も全く別次元のものというよりは、あくまでもキリスト教思想のうまい再生(リメイク)のように見える。

*1:しかし、そのウィーン国立歌劇場の『パルシファル』は、肝心のカウフマンが流感で2回欠場、指揮者のウェルザー=メストが上演中にギックリ腰で途中退場と、トラブル続きだったらしい