貴族探偵はどんな顔?

ドロシー・L・セイヤーズ『ナイン・テイラーズ』(浅羽莢子訳:創元推理文庫) 読了。

 
 コニー・ウィリスの『ドゥームズデイ・ブック』の元ネタだということがきっかけで読みましたが、とても楽しめました。鳴鐘術や流感という個々のモチーフを借りているだけでなく、脇役のキャラクターや繰り返されるギャグなど、かなり雰囲気も似ていて、ウィリスはそれほどセイヤーズが好きなんだなぁと思いました。

 
 物語は、主人公のピーター・ウィムジイ卿が事件と関わるきっかけになった、前日談から始まるのですが、なぜか読んでも読んでも未だ前日談の中にいるような、いっこうに本題に入っていないような、妙に淡々とした印象がほぼ読んでいる間じゅう続くことになりました。
 なにしろ長編ではありますが連続殺人が起きるわけでもなし、怪しいポイントはわりと始めの方から怪しいし、少しずつ謎が解明されていく一方向の展開なので、そういう点ではミステリーとして読む人には少々退屈になるのかもしれません。が、教会や鐘に関するペダンティックな描写とか、イギリス小説らしい登場人物たちが楽しいので、私は退屈することもなく読み終わりました。
 
 セイヤーズは『ドグマこそドラマ』(新教出版社)という教理に関する著書があるほど、キリスト教に熱心な人だったようなので、“神のみぞ知る”要素を残した結末は、著者の宗教観も反映したものなのでしょう。

 
 ピーター卿シリーズは他の作品も面白そうなので、いずれ読んでみたいと思います。
 キャラに関しては、女房思いで男らしいウィル・ソーデイに萌え(笑)。

 
 30年ほど前にTVドラマ化されているようですが、ピーター卿役の俳優Ian Carmichaelがいまひとつイメージに合わないような・・・
 また1987年にも『ナイン・テイラーズ』以外のピーター卿もの数作がドラマになっているようで、こちらの俳優Edward Petherbridgeのほうがまだ私のイメージに近いか。
 私は、読んでいる間ずっとRichard E. Grantを思い浮かべていました。

 
 それにしてもクリケットといい、転座鳴鐘術といい、英国にはルールのややこしいものがたくさんあるのね(^^;)