綺麗なアジアに騙される

 ハーヴェイ・カイテルが出ている、というそれだけの理由で観ることにした映画(出てくれててよかった)。とてもきれいな映画だった。
 寮のようなところに住み込んだおおぜいの女性たちが、夜明けとともに広大な蓮池へたらい船で漕ぎ出して、白蓮の花蕾を摘み取り、担いで町へ行商に出かける。ほんとにこんな仕事があるのかしら?と思うような、夢幻的な蓮池の光景。白い蓮の花は、多くを語らない静かな愛と赦しを暗示し、火炎樹の並木道に降り注ぐ赤い花は、言葉に出してかたちにする愛と獲得を象徴する。元アメリカ兵(ハーヴェイ・カイテル)の娘も、物売りの男の子も、コールガールも、何ら状況が変わったわけではなく、べつだん救われたわけでもない(敢えて言うなら、うまいこといくらか心の重荷から解放されたのは男たちばかりのような。元アメリカ兵、運転手、ダオ先生)。でもそれも含めて、これでよかったんだなと思わせてしまう。いいのよ、そういう奇蹟と詐術のあわいにあるのがたぶん映画。
 監督自身もアメリカで育った人であり、音楽担当も"西洋人"らしい。蓮摘みの若い女性(真っ黒でつやつやの長い髪がうらやましー)が歌ったのは、ほんとにベトナム伝承の歌なのか、映画のために作られた歌だったのか?劇中で彼女がさりげなく口ずさむ場面は良かったけれど、エンディングで映画音楽らしくオーケストレーションされたバージョンが流れると、いかにも「西洋人がアジア風を狙って作ってみました」感があって少し残念な気がした。『リトル・ブッダ』(映画の内容としては全然関係ないが)を見終わった時の「ずるいっ!」という気分にちょっと似ていた。

 画像は『蓮写真専科「蓮の幻想」』より