バイオテクノロジー映画ではありませなんだ

 もちろん主演のゲイリー・シニーズのみが目的で観たわけですが、他にもヴィンセント・ドノフリオ、『名探偵モンク』のトニー・シャローブ、『ER』のメキ・ファイファー、『CSI:科学捜査班』のゲイリー・ドゥーダンなど馴染みの顔がたくさん出てました。ただし主人公の妻マデリーン・ストウは好きじゃないのよね。夫婦そろって悲劇顔というところで、この役には良く合っていました。
 P.K.ディックの短編「にせもの」を原作とする映画で、もとはオムニバス作品中の一篇だそう。そのせいか、あまり大きく扱われないままだったような気がするのですが、思ったよりしっかり作られた映画でした。未来世界のプロダクトデザインや色彩もけっこう好みで見応えあり。

 アルファ・ケンタウリとの戦いに明け暮れる2079年の地球で、「敵がスパイとして送り込んだウラン爆弾内蔵のクローン」だと疑われた科学者が、自己の存在証明のため必死で逃げ延びる・・・という話。最後のオチもまぁまぁ。ただ、爆弾を身体に内蔵しているかどうか、なんでかんたんに調べられないのか?とか、あんな(笑)取り出し方しか無いのか?とか疑問に思うのはSFシロウトだからですか。

 〈クローンは自分が偽物であることを知らない〉という設定は、ちょうど最近読んだ短篇「探検隊帰る」*1と(もちろん『ブレードランナー』のレプリカントとも)似通っているので、ディックはこの種の設定を偏愛していたといわれるのもなるほどと感じます。ゲイリー・シニーズの真面目で熱心そうでありながらちょっと“つくりもの”っぽい独特の風貌が、観る側の気持ちも不安定にさせ、真相はどっちなんだろうと最後まで気になってしまう。でも、「探検隊帰る」(こちらもいずれ感想を書くつもり)に満ちた静かな悲しさや、ルトガー・ハウアー演じるレプリカントが雨に打たれながら語った追憶の美しさと切なさに比べると、この映画はサバイバルの切迫感が前面に出たぶん、自分は誰なのかという渇きがもひとつ迫ってこなかったような気がします。(それと余談ですが、大塚芳忠さんの声は好きなのですが、ゲイリー・シニーズには合わないような。ついでにアラゴルンの声もちょっとイメージ違うような。)

*1:中村融編訳『ホラーSF傑作選 影が行く』(創元SF文庫)所収