おなかいっぱい

奥泉光『モーダルな事象 桑潟幸一助教授のスタイリッシュな生活』読了。

 今後もレギュラー登場人物化しそうな元夫婦刑事(めおとデカ)が、あれこれ飲み食いする場面が多くて、そう珍しいものを食べていたり微細に描写されているわけでもないのに(若干おしゃれなのは京都高瀬川沿いのフレンチレストランぐらいで、あとは駅弁とか新千歳空港内レストランの海胆イクラ丼やハンバーグセット、中目黒の無国籍料理店で生春巻やイカスミスパゲッティと焼きビーフンとか、そういう感じ)、妙に印象に残る。これまでの奥泉作品に飲食の場面って多くなかった気がします。忘れてるだけかな。時間が直線的でなくてどこか別のところへ繋がっている奥泉ワールド、絵にしてみると『浪漫的な行軍の記録』ほど真っ黒々とはしてないけど、ああいう黒さがそこここに岩塊みたいに突き出している世界。あの黒い物につきまとわれ続ける世界。

 ところで、7月下旬ごろやっと思い立ってこの本を読み始めたとたん、8月には文庫版が出ることを知りました。
 刊行後3年も積み本にしていた自分が悪いとは思うものの、この本の場合お値段の差だけでなく、かさ高さもばかにならない。手は疲れるし、鞄に入れて持ち歩くのも無理、うちの本棚の奥泉コーナーも既に満杯だし…「文庫版ならいろいろ助かったのに」と慟哭しつつ読み進んでおったのですが、そんなある日itekiさんの日記を読んで少し機嫌が直りました。そうそう、文庫化に際して解説が付くというのが良くあるケースなんだけど、なぜだかこの本は単行本のほうが[解説+著者インタビュー+作品リスト付き]と親切設計なのよ。この《本格ミステリ・マスターズ》というシリーズの基本仕様なんでしょうか。念のため(笑)文庫版の解説も書店で一瞥、たいしたことない(?)のを確認してなんとなく安堵。